2期埋立計画に関わる補足調査の概要 平成11年1月

 三番瀬の保存と再生をどうやっていくか――昨年12月から始まった「三番瀬再生検討委員会」では、回を重ねるにしたがって、論議が深まっている。ただ、依然として実態調査が必要との議論もあり、そのためには「また、数年の歳月が必要ではないか」という声もあり、どこまでいっても再生の道が見えないことにもなりかねない。千葉県は、縮小計画を出す前に、数年をかけて、補足調査を行った。その結果 「事業計画にある740haの埋立て(当初計画)は、三番瀬の自然に対する影響が大きい」という結論を出した。
 この補足調査の概要版が、今年2月に行われた専門家会議に資料として添付され、報道関係にも配られた。この資料は、概要版といえども、膨大なページにわたっており、全部は掲載できないが、「まとめ」の部分を抜粋する。


◆タイトル「市川二期地区・京葉港二期地区計画に係る補足調査結果 の概要について」
●まとめ  
 4.1 現況編
  4.1.1 物質循環と浄化機能
  1)浅海域生態系モデルによる通年計算から求めた浅海域全体の浄化量 は、T-Nで575tonN/年、CODで2,245ton/年であり、三番瀬は三次処理としての場に加え、二次処理の場としても重要である。
2) T-Nの単位面積あたりの浄化量は100mgN/平方メートル/日で、O-N、I-Nとも浅海域で浄化されていた。
3)三番瀬の浄化量の内訳は、脱窒が約7割を占め、二枚貝の漁獲、鳥による底生生物の採餌は各約1割であった。脱窒が、他の浅海域に比べて大きいのは、三番瀬がほとんど干出せず、また、海水の透明度が低いために付着藻類の光合成が抑えられること、また、本海域が二枚貝漁場となっていることで泥化が抑えられているためと考えられる。
4)浄化量は区域あるいは項目によって異なり、ボックス1は脱窒が小さく、 T-N浄化量は353mg/平方メートル/ 日と浅海域の平均的な値を示していた。したがって、浄化機能の評価はこの2項目で行うことが重要であるといえる。
5)浄化量を陸域から湾奥部に流入する負荷量と比較すると、 T-N浄化量 は負荷量の45%に、また、COD浄化量は127%に該当し、CODについては陸域からの負荷に加え、海域からの負荷も浄化していることになる。
 4.1.2 青潮の発生機構
  1)調査期間中に確認された青潮は延べ29日、発生期間は2〜5日程度、発生規模は中・小、あるいは局所的で、大規模な青潮は発生しなかった。
2)三番瀬周辺海域の貧酸素水の主な湧昇場所としては、船橋航路奥部、茜浜〜幕張前面 海域、市川航路奥部、日の出前面および日の出東の澪筋奥部の5水域が推定され、最も貧酸素水の湧昇が顕著であった船橋航路奥部からは、防泥柵の間およびその先端、茜浜〜幕張前面 海域からは岸沿いに三番瀬内へ流入していた。
3)貧酸素水は、北偏風の弱まりなどによって 湧昇が終了し、さらに、天候の回復に伴う光合成と溶存酸素の増加および沖合表層水の移流・拡散により消滅すると考えられた。
4)調査期間中に確認された中・小規模の青潮の主な発生起源としては、船橋航路の底層部および三番瀬周辺の浚渫窪地と推定された。局所的な青潮については、澪筋等が発生起源となっている可能性がある。 また、これらの発生起源とともに、沖合底層水も青潮の発生を促進させる方向で働いていることが推測された。
 4.1.3 海生生物
   (1)環境条件
  1)三番瀬は、地形、流況、波浪、底質環境等によって、市川側の西側奥部、浦安市埋立地突端から船橋海浜公園前にかけての範囲、船橋海浜公園前から砂堆にかけての範囲、砂堆から浅海域斜面 上部にかけての範囲、水深3〜4m以深の沖合域に区分された。
   (2)生物の生息状況
 

1)三番瀬では付着藻類および海藻類は、植物プランクトンとともに基礎生産の役割を果 たしている。
 海藻類ではアナアオサが最も多く、市川側の西側奥部へ集積される傾向がみられ、これが底生生物等の生息の阻害要因になる可能性が認められた。
2)マクロベントスの固体数、湿重量はともい水深0〜1mの範囲で最も多く、浅い所の方が豊富であった。
 各地点のマクロベントス粗成の類似度の検討から、調査対象域は6水域に区分され、環境による地域区分とよく一致していた。また、代表的な27種の検討から、多様な環境条件の中からその種の生息条件に対応して分布していることが明らかになった。
3)魚類は2年間の調査で約1000種が採集され、浮遊仔稚魚、着底稚魚および幼魚が多かった。その出現状況から、底質の粒度粗成、水質のDO、ゆるやかな勾配の汀線地形、奥行きの広い静穏性などの環境条件がそこに生息する魚類にとって好適な条件になっていると考えられた。
 主要魚種17種について発育段階ごとに浅海域への集中度を検討した結果 、イシガレイやマハゼなど浅海域がなければ生活史が完結しない種から、カタクチイワシなど浅海域がなくても生息できる種まで大きく4グループに分けられた。

   (3)食物連鎖
  1)主要魚類約9000個体の食性分析より、仔稚魚は動物プランクトン、底生魚の多くは着底後小型甲殻類や小型多毛類等のマクロベントスを主体に捕食していた。また、主要な餌生物は仔稚魚の主要な来遊時期と一致する春季に個体数が急増した。  これらに基づき、食物連鎖構造を検討した結果、生態系の上位者として漁業活動が含まれ、三番瀬における生態系は人の影響のもとに成立していると考えられた。
 4.1.4 鳥類
   (1)鳥類相
  1)三番瀬および谷津地域で確認した鳥類は1996年および1997年で21科89種であり、このうち水鳥類は6目10科67種であった。また、希少な水鳥としてはチョウサギ、セイタカシギ、ホウロクシギ、ズグロカモメ、コアジサシの5種、「ラムサール条約」におけるクライテリアの基準を上回る種は、スズガモ、ダイゼン、コアジサシ等の20種であった。
   (2)シギ・チドリ類
 

1)冬季にはハマシギが最も多く(平均約2,500羽)、春季と秋季にはメダイチドリ、オオソリハシシギ、など多数が確認された。
2)ミヤコドリは三番瀬のみに、セイタカシギは谷津干潟のみに分布していた。その他の多くの種は三番瀬・谷津干潟の両方に分布し、どちらに依存する割合が高いかは種によって異なっていた。
3)採餌・休息場所は潮位により影響を受ける種があった。また、採餌・休息を切り換える潮位 も種に特徴的な傾向が見られ、ハマシギは潮位150cm付近にあった。
4)主な採餌場所は、船橋海浜公園地先汀線付近、防泥柵(B)北側域、塩浜前面 域干出部および谷津干潟東側であった。休息場所は採餌場所とほぼ同じであったが、防泥柵上も含まれていた。
5)発信機調査で、本地域での行動範囲は葛西海浜公園から豊砂を含む範囲程度であると推測された。三番瀬と谷津干潟間を潮汐の変化に伴い定期的に移動する行動は認められなかった。
6)シギ・チドリ類の採餌量を単位時間当たりの採餌回数およびその餌の湿重量 より推定した結果、両地域で冬季29.2t、春季8.2t、秋季9.2tと算出された。

   (3)スズガモ
  1)スズガモは冬鳥として渡来し、三番瀬を中心に分布し、1、2月には平均6万羽であった。また、夜間も日中と同程度の個体数が分布していると推測された。
2)スズガモはその分布状況から、のり支柱柵の設置範囲と人の活用の活発な地域を避けていることがうかがえた。
3)スズガモの主な餌はアサリとホトトギスガイであった。
4)スズガモの基礎代謝量と現地調査から、1シーズンの採餌量は約9,000tと推定された。一方、餌生物の分布量 データと採餌場所の関係から、アサリ約4,200t、ホトトギスガイ約3,800t、その他の貝類900tとなった。
   (4)その他の鳥類
 

1)その他の主要な24種について、個体数、分布状況等により、三番瀬および谷津干潟の出現状況の特徴を明らかにした。また、採餌場所の検討の結果 、種のレベルで採餌場所を使い分けている可能性が示唆された。

 4.2 予測編
 4.2.1 水質の予測
   (1)埋立地の造成および航路の拡幅・浚渫による地形変化の影響
 

1)地形変化により、三番瀬前面の東向きの平均流が強くなると予測された。
2)水質については、COD等の内部生産の関わる項目が、三番瀬近傍から木更津北部にかけて濃度増加する傾向にあり、その増加は表層水のCODで0.2〜0.5mg/L程度であった。
3)この濃度増加の機構についてっは次のように考えられた。すなわち、三番瀬近傍においては、埋立てに伴う浄化量 の消失等によりプランクトン濃度が増加し、このプランクトンが上述の流況変化により木更津北部まで輸送される。植物プランクトン濃度の増加に伴い、クロロフィル-a、COD等の濃度が増加する。
4)地形変化による影響は埋立地の寄与が大きく、航路等による影響は市川航路周辺に限られる。しかし、底層の貧酸素化が助長される可能性があることが予測された。

   (2)浄化の消失による影響
  1)埋立てに伴って消失する浄化量が水質濃度に影響をおよぼす範囲は、三番瀬周辺に限られる。
   (3)将来の下水処理場の建設による影響
  1)本計画を実施しないケースと比較すると、埋立地周辺では、流入負荷量 が減少することから水質濃度が減少すると予測された。下水処理水を境川に放流する場合は境川河口の近傍で水質濃度の増加がみられるが、江戸川に放流する場合には大きな変化はみられない。
2)下水処理水を境川に放流した場合、境川前面から埋立地前面そして幕張前面 にかけての海域で、塩分の低下がわずかにみられる。
 4.2.2 青潮(貧酸素水)の発生状況の予測
   (1)流動およ水温・塩分の変化
  1)埋立地前面の流れの変化が顕著で、三番瀬への入退流量 が減少する。
2)市川航路および船橋航路の水温・塩分の変化は、航路奥部の表層で水温は低く、塩分は高くなる傾向がある。また、航路奥側の下層でも表層と同様の傾向がみあれる。
3)航路の浚渫・拡幅によって、下層を通じて沖からの流入傾向が強まる。
   (2)貧酸素水の変化
  1)三番瀬の奥から広がる溶存酸素量3mg/L以下の貧酸素水は、浅海域の消失に伴って沖に張り出す傾向がみられる。
2)残存浅海域の貧酸素水の継続時間は長くなる傾向があり、船橋側と比較して市川側の浅海域の方がその傾向は強い。
3)貧酸素水の消滅に要する時間は、長くなると考えられた。
4)船橋航路および市川航路において、貧酸素水がやや進む傾向がみられる。
   (3)貧酸素水の変化におよぼす各要因の寄与
  1)貧酸素水の分布に影響を与えるのは、主に埋立地そのものが存在することで生じる三番瀬周辺海域の流れの変化である。
2)航路の拡幅および航路・泊地の浚渫の影響は、埋立地による影響よりは小さいものの、沖合水を起源とする大規模青潮が発生するケースでは、三番瀬やその周辺海域での貧酸素水の出現範囲が拡大する可能性があると考えられた。
3)浅海域ではばっ気(大気との間の酸素のやりとり)の効果が、貧酸素水の回復に寄与していると推測された。
 4.2.3 海生生物の予測
  1)将来の残存浅海域の広い範囲を底質の粒径が比較的大きく酸化還元電位 が高い環境が占めるが、市川二期地区埋立地東側から浅海域奥部では、流動がやや停滞することにより、夏季に還元状態に近づく海域が形成される。現況では猫実川河口周辺に存在する酸化還元電位 が年間を通して低い環境はなくなり、残存浅海域全体では環境の多様性が低下する。
2)動・植物プランクトン、メイオベントス、付着藻類、付着生物等の生物相や生息密度は大きく変わらないが、空間の縮小に伴い、残存量 は減少する。海藻類のアナアオサは、残存浅海域の埋立地沿いの流動がやや停滞する海域で集積しやすくなる。
3)マクロベントス群集の多様性は、 猫実川河口周辺のエドガワミズゴマツ等を構成種とする群集がみられなくなるので低下する。浅海域におけるマクロベントス全体の将来の生息量 は、個体数では約40%、湿重量では約50%になると試算された。
4)幼稚魚の種構成等は、生息環境条件や餌の生息密度が現況と大きく異なることがないことから現在と大きく変わらないが、生息空間の縮小に伴いマハゼ、ヒメハゼ、ギンポ、イシガレイ等の生息量 の減少は大きいと考えられた。
5)稚魚の主要餌生物である小型甲殻類の減少率が大きいが、餌生物の多様性と量 が確保されれば、他の種類が代替の餌生物として利用されるようになる可能性がある。基本的な食物連鎖構造は大きく変化しないが、食物連鎖を通 したエネルギーの流路と量に変化がおこる可能性があり、その際のエネルギー総量 の変化は、基本的に生息空間の減少に対応しておこると推定された。
 4.2.4 鳥類の予測
  1)事業計画の実施により、採餌場および休息場のほとんどが消失し、三番瀬に生息する個体数は全体として減少する。
2)現在の個体が三番瀬やその周辺地域の谷津干潟等で生息できるかどうかを、種ごとに予測した。その結果 、特に影響が認められるのは、シギ・チドリ類では、ダイゼン、オオソリハシシギ、キョウジョウシギ、ハマシギ、ミヤコドリ等11種、カモ類では、スズガモ、ホオジロガモ等4種、その他の水鳥類では、カワウ、コアジサシ等5種であった。
3)スズガモは、餌となるアサリやホトトギスガイの現存量が大幅に低下する等のため、個体数が大幅に減少すると考えられた。
4)事業計画の実施により、三番瀬に生息する個体が周辺地域に逃避し、谷津干潟に影響をおよぼす可能性がある。
 以上の結果を総合的にまとめると、事業計画にある740haの埋立ては、三番瀬の自然に対する影響が大きいと考えられる。